<人・話題/第二回>野村実さん(高校27回卒)~麻酔科医をテーマにした映画の公開に尽力

 富士高校の卒業生に会うと、ああ、この人は、やはり、富士高卒なのだなあと思うことが多々ある。様々な道を歩むOB、OGに会い、その足跡を追うとともに、富士高生の気質や文化を探っていきたい。


 第二回は、東京女子医科大学医学部教授の野村実さん。

 5月9日夜、映画「救いたい」の完成披露試写会が東京・汐留のスペースFS汐留で開かれた。

 麻酔科医(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター麻酔科医長、手術管理部長)の川村隆枝さんが著した単行本『手術室には守護神がいる』(パコスジャパン刊)を映画化したものだ。

 手術には必ず麻酔科医が立ち会う。というか、麻酔科医がいなければ手術はできない。手術の前に麻酔をかけ、痛みから患者を救うことだけが、麻酔科医の仕事と、我々は思いがちだが、患者は麻酔をかけると「呼吸さえ自分でできなくなる。呼吸をさせ、患者の体温や血圧に問題はないかを手術の間中、見守るのが麻酔科医の仕事」(野村さん)だ。

 2011年3月11日の東日本大震災の時も、川村さんは手術中の患者を守るのに力を尽くしたという。しかし、東北地方に限らず、地方の病院では慢性的に麻酔科医が不足し、手術がなかなかできない状況にある。

 そんな実態を知らせたいと川村さんは『手術室には守護神がいる』を著した。そして、第17回日本心臓血管麻酔学会(仙台)仙台大会の大会長を務めたときに、仲間の麻酔科医たちにこの本を配布したのが映画が作られるきっかけとなった。

 日本心臓血管麻酔学会の副理事長を務める野村さんは、川村さんの「さらにこの本を映画化し、世の中に麻酔科医の役割を伝えたい」という思いに賛同。寄付金集めに奔走した。

 野村さんが頼りにしたのが、「蜩ノ記」「最後の忠臣蔵」「ハチ公物語」などの制作で知られるエグゼクティブプロデューサーの鍋島寿夫さん。
 監督・神山征二郎氏、出演・鈴木京香、三浦友和、貫地谷しほり、藤村志保、津川雅彦…というそうそうたる顔ぶれが揃った。

 余談だが、鍋島さんの奥方と、お子さんは富士高校卒業(若竹会のメンバー!)だという。

(川村さんと野村さん)

 映画は、麻酔科医のドラマチックな活躍をどきどきしながら見るというようなものではなかった。
 東日本大震災に翻弄されながらも力強く生き抜く東北の人たちと、彼らを助ける医師たちの地道な努力、そして医師と患者や地元の人たちとのふれあいを丁寧に描いていた。
 実話に基づいた映画であり、一番伝えたいのがタイトルの「救いたい」という気持ちなのだろう。

 野村さんは映画の撮影でも何度も撮影地の仙台に赴き、鈴木京香や貫地谷しほりに麻酔科医の演技指導もしたという。

 野村さんによると、麻酔科医はベテランになると、執刀はしなくても手術の可否などにも意見をする。オーケストラの指揮者のような役割も果たすのだ。指揮者があらゆる楽器に通じているように、麻酔科医は内科にも外科にも通じていて、外科医よりもより広い観点から意見を言う。

 患者の立場に立って、時には手術を主張する外科医に対し、手術に耐えられない可能性が高いからと、化学療法を提案することも多いという。「麻酔科医の意見はセカンドオピニオンと考えている」と野村さん。

 野村さんの話を聞いていて、この映画はぜひ、高校生に見せたい、と思った。公開は11月22日。新宿ピカデリーほか全国の100館程度で上映。前売り鑑賞券の売り上げの一部は地域医療の振興のために寄付するという。

(高校27回卒・相川浩之)