青春のうた――思い出の富士高俳句

青春のうた――思い出の富士高俳句

 

創立100周年を迎える母校・富士高校の思い出を「五七五で詠んでみない?」ーー出て来る出て来る、あっという間に数十句。飛び入り参加もありました。「そうそう!」「そんなことあったの?」。ひたむきな、楽しげな、時にはおバカな、60年前の高校生。とても愛おしい。ジグソーパズルの失くしたピースを見つけたように、懐かしさがこみ上げてきました。

 

私たち高14回(1962年卒)の有志は2013年、古希の年に俳句会を始めました。「七十の手習い」です。会の名前は不尽(ふじ)句会。「不尽」は、不二、富嶽、芙蓉峰などと共に富士山の異称です。富士山と俳句の尽きぬ魅力、富士高への溢れる思いをこめて名付けました。

 

卒業後、半世紀以上たって再び机を並べる、などと、いったい誰が予想したでしょう。現在、全6クラスから17人。俳句の「はの字」からの人もいました。初めて言葉を交わす人もいました。月一回、句座を持ち、時には泊りがけの吟行もします。

 

富士高史の真ん中あたりにいた私たち。俳句と「俳句もどき(季語無し)」による「思い出の富士高俳句」を、お祝いのメッセージに代えさせていただきます。          (不尽句会幹事)

 

 

 

入学 通学

 

あのセーラー服を着たい

 

近所に住んでいて、ずうっと見ていた制服!   憧れのセーラー服身に入学式 

 

3年で編入、合格の決め手はたぶん志望理由。  面接で「母の母校」と春めく日

 

バスからこぼれ落ちそ~ 

 

・バスは満員。手すりにしがみつき、揺られてだんだん車内に。車掌さんが手で押さえてくれました。

 

・始発バスは、座れたのはいいのですが、練馬駅」発「伊勢丹行き」で70分かかったことも。

 

ステップに足かけやっとバス乗車     バスガールドアー閉まらず手で押さえ

 

新入生中野弥生町までバスの旅      春の朝ぎりぎりのバス同じ顔

 

平和の森公園の場所に、かつて中野刑務所。   延々と続く塀沿い通学す

 

・通学は雨の日も風の日も自転車。裏道を辿って。

 

    チャリンコで通いし路に露の玉      梅雨時も黒塀ぬって3段ギ

 

校門に仁王立ち

 

門を閉め遅刻者をチェック。立ちはだかる式田次雄先生、あだ名「シキデン」の存在感は抜群。

 

    校門の遅刻関所やシキデンさん      シキデンの横すり抜けてぎりぎりセーフ

 

赤セーター君だめだよとシキデンさん   息白し同じ面々遅刻坂

 

 

 

授業

 

時間たつのが遅いこと

 

・午前の授業は1時間40分でした。その代わり隔週土曜は休み。

 

    春眠や英数100分いと辛し       土曜待ち長い授業に堪えにけり

 

小春日や居眠り覚めてもまだ授業     春眠の午後の授業に続きおり

 

授業中、矢口忠先生の似顔絵をこっそり描いて見つかった女子。友達と2人、放課後に残される。

 

 バツはお手伝い。手や袖口が黒インクで汚れてしまう懐かしい「ガリ版印刷」。

 

                        叱られず謄写版刷りお手伝い

 

・生物の解剖実習後、ねんごろに葬りました。   校庭の蛙の墓に手を合わせ

 

・不思議なことに試験の思い出俳句はほとんど無し。忘れてしまいたいから? テスト後の映画鑑賞「風と共に去りぬ」。原作を読破すべく、試験捨てました!

 

    試験前「明日は明日の風が吹く」     テストの日にわか勉強バスの中

 

    今も見る試験の夢や脂汗

 

 

 

恩師列伝

 

夢でお会いできたら 

 

秩父良子先生の国語の授業。          淀みない源氏の朗読居眠りも

 

    俳句読み心ゆたかにのびのびと      きらきらと文読む師の目導きぬ

 

漢文は安藤和郎先生。あだ名はイワヒ(鰯)。  江戸っ子や「ヒとシ」混乱イワヒさん

 

英語の大塚勲先生は和製英語?     「デペンド アポン」ジャパンイングリッシュ

 

・国語の中村重太郎先生。都立青山高から。    担任の歌舞伎声色新学期

 

・「箒はこう持つのですよ」と女子にも中村先生。  入学時掃除の仕方教わりて

 

・物理の糠谷正行先生。後に都立西高へ。     教科さてスリッパ音とあの白衣

 

・英語の堤浩二先生。後に埼玉大教授。      春眠や漢詩英訳韻を踏み

 

・体育の安藤覚先生。後に都立西高へ。      予科練を思わす鍛錬風薫る

 

・体育の荒木豊先生。生徒にルールを考案させたりも。 工夫された体育授業若葉風

 

枕草子とエデンの東

 

三木紀人先生。映画好き。お茶の水女子大教授に。 授業内容枕草子とエデンの東

 

・家庭科の岩田時子先生、優しくご指導。     あなたたち賢い主婦にねと諭される

 

・日本史の橋本喜一先生。自信満々入試対策万全と。頼もしや日本史暗記で合格す

 

・世界史の小宮進先生の駄洒落Look at Zama」(ざまあみやがれ)が記憶に。古代ローマー軍がザマでカルタゴ軍のハンニバルを降した場面。   ポエニ戦争ざまあみやがれハンニバル

 

・小宮先生、延々と中国史。 ・小宮先生、口癖は「よせばいいのに」。

 

    近代史までゆくのかと気を揉ませ     またも出た「よせばいいのにナポレオン」

 

音楽の清水和先生、かっこいい方でした。    爽やかや男子に人気清水先生

 

・申し訳ないけど、苦手なので。         担任の漢文取らず疎まれる

 

チョーク空を飛ぶ

 

突然コラーッという声とともに。新井孝二先生。 チョーク飛ぶ化学の実験新井先生

 

・数学の杉多津先生。              すっきりと頭脳明晰杉先生

 

・松岡ツル先生たち、第五、富士高出身の先生も。 梅の香や大先輩のツル先生

 

 ・富士高史の生き字引。石垣惟一先生。      校庭でサツマイモまで作ったよ

 

・英語の中島敏雄先生、ほれぼれするお声で。   ハムレットのあの名独白朗々と

 

・西村章先生の幾何。              授業中わかった気になり後忘れ

 

・消去法で選んだ岩田和子先生の地理、面白し。   地理嫌い地図へ誘う名授業

 

・生物の原村文先生。甘党、大甘党!       羊羹にお砂糖かけるの甘いの好き

 

プールにどぼん

 

・泳げなかった生徒はプールに投げ込まれました。 無我夢中横13メートルバタ足で

 

                        

 

学園生活

 

・正面の校舎の窓下一帯に、浅野時一郎校長ご自慢の白薔薇、講堂の前には珍しい黄緑色の桜。校長から、薔薇の挿し穂を分けていただいたご父兄も。

 

校門に入れば校長薔薇手入れ       講堂の鬱金(うこん)桜に迎えられ

 

母植えしアンネの薔薇はオレンジ色

 

第五の名残りそこここに

 

・木造校舎が2教室分。窓ガラスに第五高等女学校の校章。第五時代からの家庭科の調理器具も。

 

古校舎第五のマークに見守られ      まな板の裏に焼き印「五女」の文字

 

・ガタガタと木の渡り廊下で新校舎へ。      木造の校舎に夏の日差しかな

 

男子100人女子228人

 

生徒数は女子が圧倒的。11人対43人のクラスも。

 

    体育の着替えは男子締め出して      フォークダンス背高女子が男役

 

  これぞ“伝統行事”?

 

・旧校舎で。男子数人午前の休み時間に。     早弁や隣の小部屋で堂々と

 

・黒板消しを教室のドアに挟むいたずら。引っかかった堤浩二先生が「どうしてこういうことを」と

 

あまりにも悲し気に呟かれたので、一同悄然。  面白うてやがてしんみり皆後悔

 

爽やか白いセーラー

 

・スカーフのように柔らかな臙脂(えんじ)色シルクのネクタイ。各々自慢の結び方が。

 

冬服は晩春になると暑苦しく、臙脂の線も野暮ったいと感じた女生徒も。              

 

休み時間えんじのネクタイ結び合う    六月や教室満ちる白きセーラー

 

・パーマネントも黙認。お洒落さんがいました。  パーマかけタータンチェック着て登校

 

・足もと寒くなかったのですね~。        真冬でも素足三つ折りソックスで

 

・体育のある日は着替えが楽な私服で登校。    おしゃれ上手大人びた級友夏ブラウス

 

・今の生徒は体操の時、なに着るのかな。     ブルマーはもう死語なるや運動会

 

プリーツを整えるため、毎晩の“人力プレス”。 敷き布団めくってスカート寝押しかな

 

あのときめきよ

 

・“古典的”な下駄箱の恋文。 ・井の頭池に初デート。 ・映画「ウエストサイド物語」大ヒット。ナタリー・ウッドの姿、いつまでも眼裏に。 ・初恋とてなく寂しい高校時代でした。

 

    君思う心を文(ふみ)に下駄箱へ      夏休みあけて下駄箱ラブレター

 

    秋夕焼オールの波紋ほほえみて      トゥナイトと独り歌うや真夏の夜

 

下校時もときめきなきや夕桜       カップルのあと付いて行く秋の夕

 

  手も触れられず

 

・フォークダンスには甘酸っぱい思い出。60年たった今でもマイムマイムやオクラホマミキサーなどの曲が口を衝いて出ることがある。もう一歩が踏み出せず、こっそり見学の男子も。

 

フォークダンス好きな子前に曲終わり   秋深し柱の陰のコロブチカ

 

 

 

部活

 

・炎天でも雨が降っても練習をしている部員たち。銭湯は17円でした。

 

      泥まみれ銭湯に行くラグビー部      泥まみれプール飛び込むラガーマン

 

    炎天下グランド走る球児あり       夏合宿体育館のうさぎ跳び

 

小腹満たして帰宅

 

野球練習後、中野車庫周辺で空腹をしのぎ帰宅。 食の秋ラーメン一杯30円

 

・1961年、中野坂上ー中野富士見町開通。初乗25円。丸ノ内線ほんとに乗車昼休み     

 

狩野川台風の爪跡を踏査

 

・部活で外の世界との接触も。狩野川台風の翌年、伊豆半島現地調査。 ・JRC(青少年赤十字)松沢病院を訪問。院内で収穫したトマトでもてなされた。 ・学校の紹介で大先輩の堀文子さん(日本画家)宅を訪問して、取材。とっても有名な方とは知らず、ろくな質問もせず心残りです。

 

台風の跡をつぶさに地歴班        トマト旨し人形劇持ち訪問す

 

新聞部堀画伯秋訪問記

 

 

 

下校 

 

後ろめたさも味のうち

 

下校時に寄り道して食べたりするのはダメと言われていましたが……。 ・ご法度の喫茶店。国内で本格的に製造されたばかり(1961年)のコカコーラなるものを初めて飲む。

 

宇治金時後ろめたさの味もして      道草やこっそり不二家ソーダ水

 

下校時のこれがコーラか喫茶店      徒歩通学不二家も寄らず卒業す

 

 

 

富士高祭 運動会

 

仮装にミッチーブーム

 

・富士高祭の華は仮装行列。ミッチーブーム、ウエスタンなど時代を映して。ご成婚カップルは数クラスが競演。馬車も登場。

 

軽井沢の恋の扮装富士高祭        秋晴や仮装のミッチー男の子

 

ぐれてない富士高生の愚連隊       やってみた日劇ウエスタンカーニバル

 

三度笠いったいどなた? 秋の風     雪よ岩よ遭難はない山ファッション

 

下駄履いて手ぬぐい腰にバンカラ女子   デモ行かず安保反対鉢巻で

 

先生方も面白がって

 

・パフォーマンスに、先生方も“ノって”くださった。松岡ツル先生を駕籠に乗せ、道中陣笠を被って、毛槍を振り振り、「下に~、下に~」と、全員参加で大名行列のクラスも。

 

秋の日や大名行列ツルの守(かみ)    新聞紙工夫で裃かっこよく

 

楽団「仲間はずれ」結成。聴衆の反応いま一つ。 文化祭ギターもコントもすべりがち

 

・ダークダックスがロシア民謡を広めたころ。   ロシア民謡ともに歌いし友風に

 

屋上は秘密の造船所

 

・公開中の映画「ヴァイキング」をヒントに、他のクラスに気付かれないよう作業。「乗船者」は先頭の一人を除き全員女ヴァイキング。      屋上に隠して製作ヴァイキング船

 

800m走で足がつり、歩くようにゴールインした男子。介護班のマッサージで恢復。

 

                       運動会ふくらはぎ揉むやさしき手

 

・清楚で美しい友達がいました。富士高祭出演の古今亭朝太(後の志ん朝)も見つめていたとか。

 

白百合や頬透き通る十七歳

 

火事はどこ? ここ!

 

ゴミもまとめて燃やしたところ、ボヤ騒ぎに。  文化祭打ち上げファイヤー消防車

 

 

 

遠足 林間・臨海学校

 

・バンカラぶりたい年頃。足の指が鼻緒で痛かった。粋がって陣馬遠足下駄登山

 

夢路の先は椿の島

 

・大島航路では船酔い。寝ていて海も見ず。かと思えば、船上で友が美しい声で歌い、ロマンティックな夜を楽しんだ生徒も。三原山の急斜面には石がゴロゴロ。風に吹かれました。

 

船底に寝て着く大島椿咲き        星月夜海にころがる玉の声

 

三原山セーラー服の襟踊る

 

・相馬海岸の臨海学校。例の2人寄り添いお喋り。 夏合宿うわさのカップル確認し

 

・臨海学校引率の雨海博洋先生笑顔でふくよか。 ぽっかりと海に浮かんでどんぶらこ

 

・福島で夏の合宿。安達太良登山。 ・友人の現地在住のおばあさまから桃の差し入れ。

 

憧れの智恵子の山に夏休み        差し入れの桃の甘さに舌つづみ

 

ビッグな稲荷寿司

 

志賀高原。料理なんてしたことのない女子。油揚げ一枚そのままで。

 

    キャンプの夜なんとビッグな稲荷寿司   初めての飯盒炊さんテント泊

 

・奥志賀高原でスキー教室。ちゃんとしたゲレンデなどなく、結構きつい訓練でした。

 

野うさぎの足跡点々山スキー       山スキー長い山道半ベソで

 

・岡田忠久先生。登山、スキーではお世話様でした。スマートでクールな山男岡忠さん

 

 

 

修学旅行

 

・修学旅行は京都を経て神戸港から関西汽船で四国へ。源平合戦の屋島から瀬戸内海を眺めた。

 

      景色よりトランプゲーム瀬戸渡る     春潮や駕籠で屋島に登りたり

 

願いこめ思い切り遠くかわらけ投げ    美の原点修学旅行の露一つ

 

知らぬがホトケの枕投げ 

 

・翌日、京都へ戻り、新京極で、そぞろ歩きの買い物をして清水へ。 ・「長生きしたくない」と言いつつ音羽の滝の延命水。 ・京都の旅館でお決まりの“就眠儀式”が始まったのですが……。ひょっとして先生方も枕投げをしておられたりして……。 

 

    おしろい紙みんなで試しお化粧気分    神妙に音羽の滝の延命水

 

舞妓さんしだれ桜のお便りセット     枕投げ下は教員部屋でした!

 

・帰路は京都から夜行列車で一路東京へ。     ひので号語り明かせし友は今

 

 

 

アルバイト

 

華の伊勢丹ウェイトレス

 

土曜日、学校の紹介で、新宿伊勢丹の食堂でアルバイト。昼食は硬いパンをかじって。日当は240円。かつて日当がこの額だった日雇い労働の人たちはニコヨンと呼ばれていました。

 

年賀状整理のアルバイトでは、「多く採用し過ぎた」と、こちらが“整理”対象に。

 

    唾ごくり御馳走運ぶウェイトレス     休みの日ウェイトレスをニコヨンで

 

郵便局の仕事たったの三日間

 

 

 

ああ中野

 

蛇屋? あったあった

 

・懐かしい中野駅周辺。北口商店街にかつて蛇屋・龍昇堂あり。この店の話になると座が盛り上がる。

 

・「潮来笠」「いつでも夢を」などヒット曲連発の橋幸夫の自宅は中野の旧昭和通り沿い。

 

 ・同期会やクラス会というと、いまも吸い寄せられるように中野駅周辺の店に集まる。

 

アーケード蛇屋のへびが脱走す      こわいもの見たさ蛇屋のウインドー

 

橋幸夫実家の呉服屋のぞき見し      秋夕焼中野は今も中野かな

 

 

 

そして今

 

半世紀後、また机並べる

 

・70歳から同期生と句会。W杯ラグビー日本大会では、旧同期生からルールなどを教わる。同期の物故者37人(判明分)。今会いたい人は、米国の大学に入学、向こうで暮らす大滝和子さん。

 

    秋澄むや共に学びし旧友(とも)ありて  爽やかや半世紀経て同じ句座

 

秋吟行同期の友と分かり合い       先達は泥シャツ着てたラガーマン

 

      卒業時の仲良し四人二人欠け        長き夜やアメリカからの便り待つ

 

                                     

 

不尽句会メンバー〈俳号(本名)3年次のクラス〉

 

池田京波(京子)A 牛久礫(瑤子)B 浦木一草(祀子)E 川辺直子F 小出みずき(瑞穂)B

 

阪本都風(都紀子)A ・柴田芽衣(貴美子)C ・下田斑菜(汎子)C 白井羊念()F

 

・相馬一平()F 徳山一露(清子)B 内藤呈念(好之)D 氷上直紀F 堀野静岳(正勝)D

 

町田信子F 松尾花酔(淑子)A 松永まゆ薇子F        (・印は投稿時の幹事)

 

 

 

◆尚、この思い出の富士高俳句集のビデオ版(俳句投稿者提供の秘蔵写真などを含む)

 

は下記URLリンクによりYouTubeで見ることができます。

 

 ★★★★★思い出の富士高俳句HP署名BGMx4

 

  https://youtu.be/AxqB5ioYwZc