令和4年度 熊本県近代文化功労者顕彰
満屋裕明 先生
(1975年 熊本大学医学部卒業,国立研究開発法人国立国際医療研究センター研究所 所長・理事, 国立大学法人熊本大 学病院総合臨床研究部特別招聘教授, 米国国立衛生研究所・米国国立癌研究所レトロウイルス感染症部部長, 獨協医科大学特別栄誉教授, 千葉大学客員教授, 熊本大学名誉教授)
満屋裕明先生は、1982年、原発性免疫不全症の研究で博士 号を取得し、同年秋に米国国立癌研究所 (NCI) に入所、Dr. Samuel Broderの研究室に参加されました。
満屋先生は成人T細胞白血病 (ATL) の病原体であるHTLV-1感染で起こる免疫不全の研究を展開されました。折しも、後天性免疫不全症候群 (AIDS)が全米で拡大し、1983年には、病原体であるヒト免疫不全ウイルス (HIV-1) が分離されました。
満屋先生がATL研究で樹立したヒトCD4陽性T細胞 はHIV-1の標的細胞でもあったため、先生はこの細胞を用いてHIV-1に対する抗ウイルス活性の評価法を確立 、強力な活性を発揮する治療薬(AZT、ddI、ddC)の開発に世界で初めて成功されました。AZTは1987年に最初のAIDS治療薬として認可され、世界中で臨床に供されました。
レトロウイルスは、感染すると標的細胞のDNAに組み込まれる事から、抗ウイルス療法の対象にならないと考えられていましたが、先生のAZT等に関わる知見は、このドグマを根底から覆しました。
先生の最も重要な業績はレトロウイルス感染症に対して化学療法が可能である事を初めて示した点にあります。
また、先生の研究成果に触発され、多くの研究グループが新規抗ウイルス薬を開発し、かつて「死の病」であったAIDSは「コントロール可能な慢性感染症」へと変貌しました。抗ウイルス療法がなければ失われたであろう世界中の多くの命が、先生の研究成果によって救われたといっても過言ではありません。先生はその後も薬剤耐性機序の解明と新規のプロテアーゼ阻害剤開発等の分野で先導的な貢献を続け、B型肝炎ウイルスや新型コロナウイルスの治療薬開発にも貢献を続けておられます。
先生の研究成果のインパクトは一般的な「社会貢献」のレベルを遥かに凌ぐものであります。
これらの功績を称え、令和4年11月21日(月)に熊本県庁で熊本県近代文化功労者の顕彰式が執り行われました。
受賞の栄誉をお慶び申し上げます。
なお、顕彰式には、業務のご都合で満屋先生のご出席が叶わず、松下修三熊本大学特任教授(ヒトレトロウイルス学共同研究センター長)が代理で、山縣和也医学部長と共に出席されました。