【高校人国記】3 名選手や指導者、バレー界けん引
高校の繰り返し練習 今になれば力になった
「東京五輪へ向け、ジュニア女子の活躍にも注目してほしい」。東京都渋谷区の日本バレーボール協会で寺廻太(62)はこう、切り出した。1975年、高校男子バレーで春夏秋の全国大会3冠を達成したメンバーの一人。2018年春からバレーボール女子日本代表の強化委員長を務める。
ジュニアの活躍とは、昨年7月のU20(20歳以下)世界選手権での初優勝を指す。Vリーグや全日本大学選手権などの視察はもちろん、ジュニアの合宿などにも出向き、選手の状態もチェックする。「底上げし、未来をつくる」と若手への視線は熱い。
明治大や社会人リーグで活躍。男子日本代表監督を務めた後、VリーグのJT女子チームの監督も経験した。「高校時代は練習がきつく、いつもやめようと思っていた。だが、あの繰り返し練習が今になってみれば力になった」。今は選手の所属団体との交渉や予算など裏方を担う。「絶好のコンディションで五輪を迎えられるよう努める」
その3冠時代にセッターだった大地(おおち)克史(62)は現在、食酢メーカー・センナリ(広島市安佐北区)の社長。中央大に進学し、全日本選抜メンバーにも選ばれたが、卒業後はブルドックソース(東京)で働いた後、家業を継いだ。
売りは、有機栽培の国産米と天然水を使った米酢。首都圏で飛び込み営業を重ね、海外38カ国に販路を広げた。名刺の裏に「崇徳で3冠」など戦績を記す。「バレーの話で個人的な信用を得られた」。主将として全国制覇を果たした大学時代の写真を社長室に飾り、忍耐力やチームをまとめた経験を心に刻む。
監督の言葉。企業人としての指針に
寺廻や大地と同級で現在、大和ハウスグループの大和リースで理事を務める藤井康司(61)は「(ミュンヘン五輪金メダリストの)猫田勝敏さん(故人)に憧れ」、福山市から崇徳へ。法政大に進み、4年の時、副主将として全日本大学選手権に臨んだ。決勝で大地が主将を務める中央大と対戦し敗れた。「おめでとう」「やす(康)、悪いのう」。大地と、こんなやりとりをしたという。
三井生命保険(現大樹生命保険)に入り、法人営業本部長を務めた後、自走式立体駐車場メーカーに転職、さらに大和リースに移った。「アタッカーが活躍できるのは球拾いがいてこそ」。高校時代の監督の言葉が企業人としての指針。「感謝の気持ちを常に持つ」を肝に銘じてきた。
終戦翌年の1946年に発足したバレー部は57年に全国優勝を果たす。これまでに計17回の全国優勝を誇り、「世界の名セッター」と呼ばれた猫田をはじめ、東京五輪で銅メダルを獲得した森山輝久(77)、ミュンヘン五輪金メダルの西本哲雄(69)たちの選手を輩出した。
指導者も多い。東海大体育学部長の積山和明(まさあき)(64)は学部長に就任した2017年までの30年余り、男子バレーボール部監督を務め、この間にチームを全日本大学選手権で7回の優勝に導いた。母校から東海大に進学した本多洋(48)が主将だった1993年には初の大学4冠を達成した。
青山学院大男子バレーボール部監督の小早川啓(68)は就任から13年目の2019年、関東リーグ4部だったチームを初めて1部に昇格させた。試合会場には必ず「志は高かるべし」と書いた垂れ幕を掲げる。高校2年の時、インターハイ優勝で覚えた、「勝つ喜び」を選手に伝えたいとの思いからだという。
このほか、元富士フイルム監督の井原文之(79)、元Vリーグ男子JT監督で現在は進徳女子高バレーボール部監督の小田雅志(64)。競技関係団体では広島のプロや実業団でつくるトップス広島の前理事長の山下仁(73)、広島県高体連バレーボール専門部長で高陽東高校長の金沢宏(58)たちがいる。
高校バレー界はかつての強豪校が影を潜め、群雄割拠の状態になった。崇徳の全国制覇は1988年が最後。当時、2年だった本多はJTで選手として活躍し現在は母校の監督を務める。「私が高校生だった頃から全国出場を続けているのは崇徳くらい」と振り返り、「人間性豊かな、いいチームで日本一になる」と決意を込めた。=敬称略(編集委員・杉本貢)
メモ
<かつての卒業生>谷口孟(1904~69年)日本銀行副総裁▽高橋敏雄(1908~98年)萬国製針会長▽湧永満之(1910~92年)湧永製薬創業者▽白井修一郎(1917~87年)中国醸造社長、広島県ラグビーフットボール協会会長▽小倉馨(1920~79年)原爆資料館長▽大歳克衛(1929~2014年)洋画家=以上、旧制崇徳中学
前弘登(1935~2006年)広交本社会長▽猫田勝敏(1944~83年)選手として東京五輪バレーボール男子で銅、メキシコ五輪で銀、ミュンヘン五輪で金メダルを獲得。「世界の名セッター」といわれる▽米田一典(1950~2012年)バレーボール女子日本代表でコーチを務めてモントリオール五輪で金、ロサンゼルス五輪では女子監督として銅メダル▽渡辺和博(1950~2007年)「金魂巻」著者=以上、崇徳高校
投稿日: 2020年1月24日