【同窓生トピックス】 31期 井田茂さん講演会「宇宙から生命へ」


2022年11月4日富士高多目的ホールで在校生(中1~高3)を対象に、東京工業大学地球生命研究所 教授井田茂さん(31期)が「宇宙から生命へ」というテーマで講演を行ないました。31期同期の4名(横尾英子、芳根聡、柏倉永治、佐伯幸四郎)も聴講しましたので、当日の様子をレポートします。

 

 

 

講演は、自身による経歴紹介との二部構成でした。前半はまず、幼少期から中学時代まではなかなか手のかかる子供だった、という意外な回想から始まりました。幸い自由な富士高の校風には肌が合い、高校生活を謳歌し、京都大学に進学し本格的な理論物理の勉強に打ち込みますが、秀才連中のレベルの高さを痛感したそうです。専攻分野を決めるにあたり、素粒子論的宇宙論を志しましたが優秀なライバルが多く願い叶わず、大学院は東京大学の地球物理系研究室に進学することになります。博士課程修了後、東京大学教養学部の助手として研究者生活をスタートしましたが、その頃から徐々に、研究環境と興味に従い、流れに逆らわず、仲間とチームを組んで研究するスタイルを身につけていきます。ネイチャー誌に発表された月の形成理論で大きな業績をあげた後も、一つの分野に固執することなく、系外惑星、生命の起源へと研究対象を広げ、現在に至っているとのことでした。前半特に印象に残ったのは、約40年前に断念した宇宙論分野の研究者達が皮肉にも、最近になって井田さんのメインテーマである地球外生命の分野に参入してきている話です。このエピソードは進路選択に悩んでいる生徒たちに大きなヒントを与えたのではないでしょうか。

さて話はいよいよ本題の「宇宙から生命へ」に進みます。小惑星りゅうぐうのサンプル分析結果を含む太陽系内外の地球外生命にかかわる観測データや、太陽系外惑星の発見で2019年ノーベル賞を受賞したミッシェル・マイヨール氏との交流等、最先端のトピックがふんだんに盛り込まれており、中高生だけに聞かせるのが惜しく感じるほど贅沢な内容でした。さらに話題は「“生命”の定義の難しさ」や「意識と肉体の分離」といった哲学的な内容まで広がります。生徒がついてこられるか少々不安が過ぎりましたが、質問タイムでは高校生だけでなく中学生からも活発に質問がでており、参加生徒たちの知的興味を刺激したこと間違いありません。講演会に参加した生徒たちの中から、将来この分野の研究者が誕生することも期待できるセッションでした。

講演会後、天文部員だった井田さん、芳根さん、私は、現役部員の案内で新校舎に移設された天文台を見学させて頂きました。狭い階段を上り観測室に入ると、我々が現役部員時代に使っていた主砲、1961年製五藤光学の15㎝屈折望遠鏡が、(赤道儀架台は電動式に改造されていましたが)当時の太陽投影板と共に昔の外観そのままドーム中央に鎮座しており、記憶が一気に45年前に巻き戻されます。感慨に浸りつつ我々が現役だった頃の部活動談義に花を咲かせた後、顧問の先生と在校生に見送られて冨士高の門を出る頃には既に陽が傾いていました。帰路、西日を浴びた新宿高層ビル街を眺めつつ何となく20代の頃の記憶を確認しようということになり、新宿西口“思い出横丁”へ針路を変更。赤ちょうちんのカウンター席に腰を下ろし、母校訪問の一日を締めくくりました。

 

                                                                                        (31期 佐伯幸四郎記)