野村公郎校長インタビュー「コロナに負けず、22世紀の礎を築く子どもたちに必要な教育を行いたい」

 創立100周年を祝う2020年は予想もしなかった新型コロナウイルスの蔓延で、記念式典を含む学校行事はすべて中止になった。創立100周年、新型コロナ対策、2021年からの新しい中高一貫教育のスタートなど多くの課題に、どう対応してきたのか。都立富士高等学校/附属中学校統括校長の野村公郎さんに聞いた。

――高校での生徒募集が停止され、全面的に「中高一貫校」となった富士。本日、その記念すべき入学式が行われました。

 「富士は、1つの学校として一体的に教育を行う『中等教育学校』ではなく『併設型』の中高一貫校ですので、高校で選抜がなくても、高校の入学式はあるわけです。ですので、例年と同様、高等学校と附属中学校が合同で入学式を行いました。ただ、これまでは中学は3クラスで、高校では高校からの入学者を加え、5クラスで入学式を行っていましたが、今年度から高校は3クラス、中学が4クラスの入学式になりました。160人が新たに附属中学に入学しました」

――中学生だけの入学式だと思っていました。挨拶が難しいですね。どのような挨拶をされたのですか。

 「今年度から5年間、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)として文部科学省に認定されたことをまず話しました。富士高等学校・附属中学校は「6年間を貫く課題研究『富士未来学』に挑戦する中高一貫理数教育カリキュラムの開発と評価」をテーマに認定されました。都立高校普通科でスーパーサイエンスハイスクールに認定されたのは、日比谷高校、戸山高校、立川高校、小石川中等教育学校に次いで5校目です」

 「高校生には、『将来の大きな夢に向かってあえて困難な道を選び、自己の力を大いに発揮してほしい』、中学生には『自己の可能性を高めるための力をしっかりと身に付け、能力を最大限に発揮するための準備に日々努力してもらいたい』と求めました」

――中学生はまずは基本的な力を付け、高校生になって困難にあえて挑むということですね。

 「中学生はまだ義務教育段階なので、規制されることも多い。でも、今年から中学生も自動販売機を使っていいことにしました。スマートフォンやタブレット端末は、これまでは原則持ち込み禁止で、持ってきてもロッカーにしまってもらっていましたが、授業で使うので、今年から教室への持ち込みを解禁しました」

――どんな授業に使うのですか。

 「いろいろな授業に使います。授業が理解できたかどうかも入力してもらいますので教師は生徒の理解度が把握できます。生徒が自分の意見をチャットで書き込むと、正面の大きな画面に映し出されます。グループウエアの「Microsoft Teams」は全教員と全生徒がIDを持っており、授業に活用しています」

――プログラミング教育に限定して使うというのではなく、普通の授業にも使うのですね。

 「中学生には文科省のGIGAスクール構想で1人1台、ペン入力もできるパソコンを配布しました。それとは別にスマホなども持っている人は持ってきていいですと許可しました。個人のスマホやタブレットにもTeamsを入れて使っています。文科省は認める方針を出しているのですが、多くの中学校はまだ持ち込み禁止で、富士はいち早く対応しました」

――コロナ禍で学校が休校になり、教育のオンライン化の必要性が叫ばれましたが、EdTech(エドテック)といわれるIT(情報技術)を使った教育のイノベーションが進む時代には、単に先生と生徒をオンラインで結ぶだけではだめですよね。

 「家庭と教師をオンラインで結ぶ授業はコロナ禍が終息したら不要になります。デジタル機器は個別・最適な学習指導に向いています。文房具の1つとして誰もが有効に活用できるものがデジタル機器であって、単なる授業をするための通信機器ではないのです」

 「富士の公式YouTubeチャンネルを、富士の生徒だけが見られる限定公開で作りました。もう先生たちが400コンテンツ以上をアップしています。それを見て自宅で学習をしてもらっています。問題にはQRコードを付け、解けない生徒向けに解説の動画にリンクしています。いままでは放課後に『先生、ここがわからないんですけれど』と何人もが聞きに来るのですが、同じ問題を質問されることも多く、なんども同じことを教える。だったら解説動画を配信したほうが早いと、この取り組みが始まりました」

――コロナ禍がきっかけになって一気にデジタルを活用した学習が広がったのですね。

 「オンラインだとその場にいなければなりませんが、YouTubeのオンデマンドだと好きなときに見られます」

 「若い先生たちが放課後、教室に集まって撮影会をしたりしています。奈良市立一条高校と授業のコラボも始めました。英語のディベートの授業はオンラインで結んで両校同時に行ったりもしています」

――そうした試みは野村校長がリーダーシップをとられて進めたのですか。

 「一条高校の前の校長が、『よのなか科』の授業で有名な杉並区立和田中学校元校長の藤原和博さん。彼と対談したことがきっかけになって、一緒にやろうということになり、仲立ちしてもらいました」

 「グローバル・スマート開発部という組織をこの4月に作り、今後、ICT関連のプロジェクトを積極的に進めてもらいます。コラボ授業もそこが担当します」

 「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)探究部も昨年4月に作りました。SSHの認定を受ける前に作り、準備を進めていました」

――SSH探究部は具体的にはどんなことをするのですか。

 「いままでの『探究未来学』に代わり、『富士未来学』を始めます。『探究未来学』は中3と高1で取り組んでいましたが、それだけではもったいないので、体制を変えました。中学校1、2年生で基本的なことを学んでもらいます。総合的な学習の時間を使って統計学、分析学など、研究していくにあたって必要なことを学びます。中学3年から高校2年まで、本格的な研究をさせます。中学3年生は先生がついて『ゼミ活動』と呼ぶプレ研究を行います。高校1、2年生になると、『ラボ活動』として、本格的な個人研究活動を始めます」

――3つの学年の交流はあるのですか。

 「研究の日時は同じにして異学年交流をしてもらいます。研究でつながり(連携と継承)ができることを狙っています。これはSSH申請の際のセールスポイントにもなっています」

 「中間発表などは誰もが聞けるので、『こんな研究があるのか』とか『この研究は自分の研究と関連づけるともっと深まるのではないか』などと、参加する生徒考えるようになると思います」

 「生物と工学、あるいはロボットの知識が結びついて新たな物が生まれるようなことに期待しています」

――『富士未来学』はこれまでにない学習ですね。

 「学校教育は『解』のあるものを説く教育がほとんどですが、富士未来学は正解のないものにいかに解を求めていくかを考える学問です。Society5.0といわれる社会を生きていく、あるいは22世紀の礎を築くことになる子どもたちには絶対に必要な能力です。こうした学習から新たな価値を創造できるのではないかと思います」

 「SSHは究極的にはノーベル賞がとれる研究者を育てるようなとんがった研究を支援するメニューなんです」

――頭の固い親からは、高校2年生は受験に取り組んでもらいたいと、文句が出るかもしれませんね。

 「もちろん大学の受験指導はしっかりします。でもSSHの研究は社会に出てから役に立つ。科学オリンピックなどに積極的に研究成果を発表してもらいます。入賞すれば、その研究を大学で続けるような道も用意されています。

 「短期留学の提携校である英国のバンガー大学(海洋生物学で著名)では富士の理数教育に対応した中高生向けの短期留学プログラムを作ってくれています」

 「海外の大学のMOOCS(大規模公開オンライン講座)も受けてみろと言っています。それできっかけで生徒が大学に引っ張られることもこれからはあるかもしれない」

――もう既存のレールの上を走ることだけを考えているわけではないんですね。

 「海外の講座を受講できるようにFGG(富士グローバルゲートウェイ)」という部屋も作ります。”校内英語村”です。英語教育推進校に指定されているので、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)で任用した外国の青年やALT(外国語指導助手)も常駐させることができます。大きなパソコンと3Dプリンターを置いて、フィジー等海外の学校等ともつなげ、常時英語でやりとりができるようにします」

ーーなぜ3Dプリンターまで用意したのですか。

 「プログラミングをするなかで、実際に形にしたらどうなるのだろうと思ったら使ってもらう。英語教育とは直接は関係ありませんが」

――若竹会はどんな協力ができそうですか。

 「若竹会と現役の生徒をつなぎたいと思っています。いろいろな力を持っている先輩方に協力をしてもらいたい。これまでの理数アカデミーの土曜講座は我々教師がお膳立てしていましたが、これからは生徒に、『こんな研究をしている先輩はいませんか』と直接声を挙げてもらいたいと思っています」

ーー我々は講師の派遣を依頼されると、実績のある人を選びますが、そうするとある程度年齢が高い方になる。まだ若いがこれから有望な研究者も、生徒たちが学ぶのにはいいかもしれませんね。

 「研究をされていてこれから注目を集めそうな方は大歓迎です」

 「SSHで研究をしたら高校3年生では英語で論文を書きます。ですのでグローバルな分野で活躍されている人にも講師になっていただきたい」

 「グローバルで活躍するとなると、多様な分野の知識も必要。リベラルアーツも大事ですね。そういう意味では幅広い分野の卒業生のお力をお借りしたいと思います」

 「富士に来たら勉強も部活も学校行事もやらなければいけない。学外でボランティアをすることもあるでしょう。二兎も三兎も、何兎も追ってほしい」

ーー学外でボランティアをする生徒は多いのですか。

 「『都立高校生等によるボランティア・サミット』に参加した生徒もいます。オリンピックのボランティアを募ったら、1校5人までなのに50人くらいの応募がありました」

 「一人では何兎も追えないので、周りを巻き込んで追えと話しています。そうすれば何兎でも追える。一人で捕まえる必要はないのです。皆で協力して捕まえろと言っています。皆を巻き込むことでの新たな価値の創造です。周りを巻き込んで主体的に生きるのが、自主自律の意味だと思います」

 「進路指導担当の主任には、難関大学を目指す生徒はTeamsでつなげろと話しました。西高や日比谷高校の生徒も巻き込んで、チームをつくればいいと考えて各校と話をしています」

――学校の壁などないのですね。

 「東大の合格者数を学校間で争っても仕方がない。日本全体で世界を目指すような人材を育成して、世界を舞台に渡り合うような人材を育てることが必要です」

――野村校長が都立の校長会の会長をしていることが壁を壊すことに寄与しているのですか。

 「それよりも教育委員会での行政経験が大きいですね。そこで仲間と一緒に仕事をして先輩方とも仲良くしていただきましたから、いろいろなつながりがあります」

 「西高とは一条高校と行っているような合同事業を実施しますよ」

 「これからは富士の授業が物足りなかったら西の授業を見てもいいよ、という感じになると思います(笑)」

 「これから求められる教員は教えることが上手な教員とコーディネートが上手な教員だと思います。インターネット予備校の『スタディサプリ』の授業のほうがいいという生徒がいた場合、怒れますか?怒れないでしょう」

――先生たちの中にはITが苦手という人もいるでしょう。でも一気にIT化を進められたのですね。

 「教員たちが自主的に研修会を開いて学んでくれています。学校は『教員みんなができるようになったら始めましょう』というところなので、改革がなかなか進まない。それだといつまでも改革できないから、できる先生から始めて、できない先生はできる先生が引っ張っていってほしいと話しました。今は学校の会議は完全にペーパーレスでやっています。生徒が先生にITを教えてくれることもあります。そういう時代だと思います」

 「ただでさえ日本はデジタル化が遅れているのだから、そうでもしないと前に進めません。先生たちには、『120%の完成度のクリスマスケーキが12月26日にできても売れない。80%でもいいから12月24日に間に合わせてほしい』と話しています」

――コロナに負けず教育を進められているお話を伺いましたが、生徒は高校生活で諦めなければならないことも多く、大変だったと思います。

 「学校行事はすべて中止になりました。部活動が全然できなくて、大会が1年間ないという部がほとんどでした」

 「学年をまたいでの学校行事はすべてだめということになったので、文化祭、体育祭も中止になりました。だったら各学年で何かできないかと投げかけたら、生徒たちが『富士レク(レクリエーション)』を考えました。昨年秋に各学年が球技大会を行いました」

――ありがとうございました。

(2021年4月7日、校長室で。聞き手は、相川浩之、落合惠子=写真撮影も=。ともに高校27期)