ジャーナリスト、安倍宏行さん(高校26回卒)が「働く意義」「仕事と社会の繋がり」をテーマに、中学2年生120人に講演

 どんな仕事をするにしても、「社会のために」と考えてほしい。常に好奇心を失わず、趣味や勉強を継続し、ネットワークを広げていってほしい。そうすれば、必ずいい人生を送れる――。都立富士高校のOB(高校26回卒)である、ジャーナリストの安倍宏行さんが6月12日、都立富士高校附属中学校の2年生約120人の前で、「働く意義」「職業を通した社会との繫がり」というテーマで、自らの仕事への取り組みや国際人として生きることなどについて、わかりやすく語った。1時間、安倍さんの話を聴いた中学生たちは、心のスイッチが入ったようで、講演後は質問が絶えなかった。

 今回の富士高校OBの講演は、上野勝敏校長が講演に先立つあいさつで、「ビッグプレゼント」と評したように、若竹会から現役中高生への贈り物だった。

 後輩たちのために、できることは何でもしたい。それこそが同窓会の存在意義――。そんな若竹会のメッセージを上野校長が受け入れてくれて、実現した。

 中学生たちが、自分のライフデザインを考える第一歩となる「進路探究」という授業。そのスタートで、「働く意義」「職業を通した社会との繫がり」をわかりやすく語ってくれる卒業生はいないか。

 進路担当の先生の要望にこたえられる人をフェイスブックの若竹会の集まりで募ったところ、真っ先に名乗りを上げてくれたのが安倍さんだった。

 安倍さんはフジテレビでキャスターを務めていたが、昨年9月に退社。ウェブで新しいニュースメディア「Japan In-depth」を立ち上げた。

 慶應義塾大学経済学部を1979年に卒業後、日産自動車に入社。自動車の輸出業務に携わり、海外で活躍したが、1992年、36歳の時にフジテレビに転職した。報道局で政治・経済を担当。ニューヨーク特派員・支局長も経験した。その後、ニュースキャスターとして活躍した。多彩な経歴は、中学生たちの関心を集めた。

「校庭と校舎の位置が昔は逆だった」「いつの間にか中高一貫校になっていた」。PCとスクリーンの接続がうまくいかず、PCでの説明は諦めて、中学生の前に立って、話し始めた安倍さん。

 生まれて初めての中学生の前で話す経験。初めは距離感を計っている感じだった。

 「君たちは生まれながらにデジタルの環境があった『デジタルネイティブ』。
デジタルネイティブって知ってる?」。
 中学生たちはきょとんとしている。

 「昔はインターネットはなかった。PCなんて持っていなかった」。
 「大学2年生のときにアメリカに2ヵ月ほど滞在して、初めてアップルのコンピュータを見た」。
 「英語は日本人の先生が教えていた。そもそも外国人が日本にあまりいなかった。英語が好きで、外国人と話してみたいと思ったが、外国人が歩いていない」。

 「光が丘団地は昔、米軍の住宅、『グランドハイツ』だった。そこで覚えた英語をとにかく使ってみた。わっちゅあねーむ、うぇあどぅゆぅりぶ。変な中学生と思われただろう」。
 「ビデオもない時代。英語はラジオ英会話で暗記した。そのとき覚えたフレーズは忘れない」。

 「若い時に覚えたことは忘れない。大事なのは覚えたことを応用すること」。

 「6年生のときの文集に『国連大使になる』と書いていた。国連では働かなかったが、世界とつながる仕事をした」。

 中学生たちとの違いと共通点を確認しながら、話はだんだん、核心に入っていく。

 「日産自動車に入って、辞令を受けた。中近東。中近東って分かる?」

 安倍さんとしては、簡単な質問で、中学生たちの緊張をときほぐそうとしたのだろうが、返事がない。

 安倍さんは、サウジアラビアに車を輸出していた。25~26歳のころ。気温は46~47度もあった。
 「クルマの85%が日本車だった。日本のクルマは壊れないから。砂漠で自動車が止まったら死んでしまう。世界中の人が日本車を買ってくれた」。

 「外に出ないとわからないことが、いっぱいある」「日本製品、海外で働く日本人」「常に世界と日本の関わり方を考えてほしい」

 「いま、世界は微妙にリンクしている。日本が一番貿易している国は?」
 「そう、中国なんですね。仲が悪いみたいに言われているけれど、お互いのマーケットは大事。だからこそ、仲良くしないと、両国にダメージが及ぶ」。

 「経済の世界では、いろんな国がいろいろな形で結びついている。日本は原発が止まっているので、化石燃料を買っている。空気中にあるものがいっぱい排出される。そう、CO2ですね。CO2は分かるんだ。ばかにできないね」。
 「CO2が排出されると地球が温暖化する。グローバルウオーミング」。
 なぜか、ここで中学生は盛り上がる。英語の授業で、グローバルウオーミングを学んだばかりだったらしい。

 「原発の問題は日本の問題だが、世界の問題でもある」。
 「グローバルに考えよう。日本の課題と世界の課題は密接にリンクしている」。

 「みんなは中学2年生。将来何をしたい?」
 「なりたいものはあるけれど、心の中に秘めている人?手を挙げて」

 10人くらいが手を挙げる。
 ゲームプログラマー、アナウンサー、塾の先生(なぜか拍手)。 

 「グローバルに仕事をするには、英語が必要。英語はだれに習っているの?
アンソニー、カナダ人…ですか」。
 「僕はずっと英語を習っている。子供の時から。継続は力なり」。
 「なぜ継続は力かわかる? 人間は継続しない動物だから。ほとんどの人は継続しない。どこかでやめて、後悔する」
 「継続する人があまりいないから、継続が力になる」「自分が好きで子供のころからやっているものは、絶対やめない方がいい。人生が救われることが必ずある」。

 「英語も続けるべきだ。でも、所詮、言葉。うまくなくていいから続けよう」。
 「どんな仕事をするにしても英語は必須。英語ができたらトムクルーズにインタビューできる。通訳を介してじゃなく、直接、話せたら、Facebookで友達になれるかもしれない」。
 「英語だけは諦めないほうがいい。諦めて、後悔している人をたくさん見ている。グローバルな時代になると、何事も国内で完結しない。ゲームデザイナーになるにしても、日本ではやっているゲームと海外ではやっているゲームは違うから、英語ができたほうがいい。日本語とあと2つくらい言葉ができるといい。僕はスペイン語とフランス語はできる」。

 話は「どんな仕事がしたいか」に戻る。

 「なんのために仕事する?」
 中学生たちは、いつの間にか、なんでも答えるようになっている。

 「お金のために」
 「会社を向上させるために」
 「自分がよりよく暮らせるために」
 「愛のため」(笑)
 「自分を成長させるため」(感嘆の声)
 「世の中の役に立つため」

 ようやく安倍さんが求めている答えが出てきた。

 「人って自分のために仕事する。労働の対価として賃金を得る。自分のためだけれど、みんな、社会の一員。一人では何もできない。自分のためは、実は社会のためでもある」。

 「一緒にキャスターをしていた滝川クリステルさんが動物の殺処分をゼロにしたいと財団を設立した」。
 「日本でどのくらいの犬や猫が殺処分されているか、知っている? 16万頭」
 「ドイツでは一匹も犬や猫を殺していない。シェルターで動物を保護し、引き取り手を見つける」
 「日本では保健所で犬や猫は窒息死させられる。これをゼロにしようという活動を始めた」。

 「『明日、ママがいない』というドラマは知っている?児童養護施設に入っている子供たちの話。そういう施設に何人、子供たちがいるか知っている?」
 「4万人くらいいる」。

 安倍さんは、そのうちの赤ちゃんを施設から里子に出そう、養子縁組しようという活動をしている。そのために国会議員のところに行って、法律を変えるか新しく作れと訴える「ロビーイング」をしている。

 「これは対価を得る仕事ではないけれど、世の中のためにしている、広い意味での仕事」。

 「パラレルキャリア。並行していろいろなことをすることがこれからは必要」。

 「いろんな仕事をしている人がすごく増えている。それは東日本大震災以降の流れだ」。

 「それまでは、日本は安全な国といわれた。ところがそんな“常識”が、意外に簡単に壊れた。放射能漏れの事故が起きるまで、電気が何で作られているかさえ気にしていなかった」。

 「いろいろなものが崩れ去る。常識と思っていたことが違うということがわかった。いろいろな活動を、仕事以外にもしよう。そう思う人が増えた」。

 「どんな仕事するにしても社会に対していい仕事をしてもらいたい。それが結果的に自分のためになり、お父さん、お母さんのためになり、子どものため、親友のため、愛する人のためになる」。

 「あなたたちは、何年かしたら社会人になる。どんな仕事をしても、かまわない」。

 「でも、いつも、社会、世界を意識して」。

 「自分のためだけと考えたら寂しい」「社会や世界を考えたら、自分の胸の中に誇りが生まれるでしょう?」。

 「アメリカの大金持ちも偉い人が多い。例えば、ビル・ゲイツは、最近は私財を投じてHIV(ヒト免疫不全ウイルス)撲滅のためにお金を使っている」。

 「キャリアって、一つじゃない。最初にどんな仕事につくかは重要ではない」。

 「土曜日の夜にネットの「ニコ生」(ニコニコ生放送)を担当しているが、今週は、女子高生の企業経営者に出演してもらう。震災以降、震災対策となる日本の技術を世界に輸出しようとしている。そんな人もいる」。

 「キャリアというのは一生に一つではない。2回、3回と転職してもいいし、大企業ばかりが働く先ではない。日本の企業の99%は中小企業。個人事業主をやってもいい。一人ひとりが会社をつくって大きくしてもいい」。
 「自分のやりたいことは何か、自問自答しながら、やってください」。

 安倍さんのやってきたこと、中学生たちに取り組んでほしいことが、歩み寄ってきた。

 安倍さんは、「最後にみんなに三つの大切な言葉をプレゼント」。

 「一つ目。好奇心を忘れるな。好奇心があれば、人生がカラフルに、楽しくなる。いろいろなものに首を突っ込もう」。

 「二つ目。継続は君たちを助ける。趣味だろうが勉強だろうがなんでもいい。継続すれば、人生が豊かになる」。

 「その結果、できるのがネットワーク。ネットワークをちゃんと持っていると強い。友達に助けられることがごまんとある。ネットワークをつくり、広げよう」。

 質疑応答では、質問が止まらなかった。
・転職2回されたけれど、きっかけはなに?
・アナウンサーになるためには、どうすればいい?
・自動車メーカーの後、なぜジャーナリストに?
・アナウンサーの年収は?
・英語はどのくらい勉強している?
「時事問題は、新しいボキャブラリーが増えるので、週2回マンツーマンで時事について英語で先生と話す。週1回朝活で英語を学んでいる。英語で考えることが大事」。
・大学生の時の短期留学について。
・趣味
「お前はOLかと言われている。英語、フランス語、書道、バイオリン。スポーツは、スキー、ジョギングなど」
・好きだった科目。
「英語、国語、数学」。
・15歳の人が会社を立ち上げられる?
・富士高校の思い出
・番組を通じて親しくなった著名な人

 質問は尽きなかったが、このあたりで講演は終了。

 中学生の代表から「お礼の言葉」があった。

 「私たちも将来の仕事のことを考えなければならない時期になっている」。

 「仕事の大切さがわかった。これから、自分たちでも調べたりして、今日の話を役立てていきたい。ありがとうございました」。

 中学生たちは「感想」を手紙にして安倍さん出すそうだ。

                        (高校27回卒・相川浩之)