同窓生へのインタビュー2

田中 萌 (学部9回生)
三重大学医学附属病院 摂食・嚥下障害看護認定看護師

2022年9月現在

Q. 卒業後(から現在まで)の進路は?

同窓生インタビュー

A. 平成22年3月に看護学科を卒業し、同年4月に三重大学医学部附属病院に就職しました。最初の配属先は旧9階南病棟(脳神経外科・口腔外科)でした。新病院への移転後は現8階南病棟(脳神経外科・脳神経内科)へ配属となり、同病棟で7年間勤務しました。その後ICUで約半年、現9階南病棟(肝胆膵移植外科・消化器肝臓内科)で約4年半の経験を経て、令和4年4月よりNICUに配属となりました。
 最初の配属先である旧9階南病棟での経験から摂食・嚥下障害看護認定看護師を目指すようになり、看護師6年目の時に認定看護師の教育課程を受講しました。認定資格を受け、看護師7年目から認定看護師としての活動を開始しました。認定看護師は5年毎に認定資格の更新が必要となるのですが、令和3年に初回の更新を終え、令和4年現在認定看護師の経験としては6年目を迎えました。

Q. 看護師を目指したきっかけは?

A. 幼稚園の頃にはすでに「看護師(当時は看護婦でした)になりたい」と七夕の短冊に書いていました。なぜその頃から看護師に興味を持っていたのか記憶は定かではないのですが、両親から「将来困らないから医者か看護師になるといい」と言われていたことが影響していたと思います。またドラマでナース服を見て、「あれを着てみたい!」と憧れていたこともあったと思います。ナースキャップへの憧れがありました。
 「大きくなったら看護師になろうかな」というなんとなくの憧れから、「看護師になる」という確固たる目標に変わったのは、中学3年生になる春休みに、怪我で入院をした経験からでした。10日あまりの入院でしたが、怪我のことはもちろん、入院期間中に新学期が始まってしまい、新しいクラスに馴染めるのか、また高校受験に向けてのスタートを切る年なのに勉強が遅れてしまう、と不安でいっぱいでした。そんな中、看護師さん達が優しく声をかけて下さり、とてもありがたく思いました。中でも強く心に残っているのが、一人の看護師さんが「看護師になりたいって思ってくれているんだって?将来一緒に働けるといいね」と声をかけて下さったことです。自分からは看護師になりたいと思っていることを話した記憶はないので恐らく両親が話したのだと思うのですが、怪我のことだけでなく、「私のこと」をきちんと知ってくれているのだと感じ、とても嬉しく思いました。
 患者さんの疾患や治療だけでなく、性格や生活背景、思いなどを把握し個別性に合わせた関わりをするということは今となっては当たり前のことですが、当時の私は、看護師は病気や怪我の知識があれば良いと思っていました。その患者さんがどういう人かということを知るために情報を集めたり、どういう人かということをわかって関わっているのだと知り、改めて看護師という仕事の凄さ、素晴らしさを感じ、看護師を目指すようになりました。結局その看護師さんとは一緒にお仕事はできていませんが、素敵な看護師さんに出会えたと思いますし、自分も患者さんにとってそうありたいと思っています。

Q.認定看護師としてどのような活動をされていますか?

A. 「摂食嚥下」とは私達が当たり前にしている「口から食べる」ということなのですが、その過程は少し複雑です。摂食嚥下とは、食べ物を認識して、口に食べ物を取り込み、飲み込みやすい形にまとめて、のど・食道を通って胃に入るまでの過程をいいます。この一連の過程のどこかが病気や治療、加齢といった色々な原因でうまく正機能しなくなった状態を、摂食嚥下障害といいます。摂食嚥下障害があると、脱水や低栄養、誤嚥、窒息といった命に直結するような問題が起こり得ます。
 摂食・嚥下障害看護認定看護師の役割は、多職種と協働しながら、摂食嚥下障害について症状や病態をアセスメントし、摂食嚥下障害によって起こり得る問題を予防し安全を確保した上で、患者さんの状態に合わせた食事形態やリハビリテーション、口腔ケア等のケア方法を検討し、実施していくことです。
 実際の活動として、私は摂食嚥下支援チームという多職種チームに所属し、摂食嚥下障害患者さんの治療やリハビリ、食事形態や退院に向けての支援等についてカンファレンスで検討しています。チームのメンバーは医師、看護師、リハビリテーションスタッフ、栄養士、歯科衛生士、薬剤師です。毎週チームカンファレンスを行っています。カンファレンスではそれぞれの職種が、それぞれの立場から意見を出し合っています。私は看護師の立場で、この患者さんを病棟で看護するにはどうすればいいか、摂食嚥下障害患者さんへの対応経験がある看護師はいるのか、病棟の重症度はどうか、安全を確保できる状況なのかなど、各病棟の特性を考慮しながら意見を出しています。色んな職種の話を聞けるので、とても勉強になります。
 チーム活動以外には、病棟や外来から相談を受けて、摂食嚥下障害の評価をしたり、食事形態や水分のとろみの調整についてアドバイスをしています。病棟から依頼を受けて勉強会を開くこともあります。また新卒看護師の研修の一つで、口腔ケアについての講義を担当したりしています。

Q.看護師として大切にしている思いや姿勢は何ですか?

A. 「やってよかった、やってもらってよかったと思える看護の提供」です。これは最初の配属先であった旧9階南病棟の大切にしていた看護の姿勢で、毎日朝礼のときに読み合わせをしていました。今も私の中で大切にしていることです。また摂食嚥下障害について勉強していく中で、「食べることは生きること」なのだと考えるようになりました。「食べること」を支えるというのは「患者さんの生きること」を支える、看護の基本なのではないか思っています。また現9階南病棟でがん患者さんと関わった中で、「その人らしく(社会で)生きる」ということを支えるということも大事にしていきたいと思いました。病気のこと、治療のこと、家族のこと、仕事のこと、死への恐怖、患者さんは本当にいろいろなことを思い悩み、そして選択しています。治療をしながら仕事を続ける人、好きなことをやろうと思われる人、家で過ごすことを希望される人、誰にも迷惑はかけたくないと思う人、その人その人で違い、それは「その人らしさ」なのだと思います。そして「その人らしさ」を選択できない人がおられるということも知りました。
 医療の発展に伴い、障害や病気を抱えて社会で生活されている方はたくさんいらっしゃいます。その人達がその人らしく生きていくためにはどうすればいいか。例えば痛み等の症状をコントロールしたり、生活環境や設備を整えたり、いろんなアプローチはあると思います。
 食べることは単なる生きるための栄養補給だけでなく、食べることが好き・食べ歩きが趣味といった楽しみやストレス発散方法になっていたり、誰かと一緒に食事をすることでその人との仲を深めたりとコミュニケーションの一部にもなっています。それは「その人らしく生きる」ということに繋がると思います。私は「食べること」を支えることで、「その人らしく生きる」ことを支えることができるのではないか、そうすることで「その人らしく生きる」ための選択肢を増やすことができればと思っています。
 私が摂食・嚥下障害看護認定看護師を目指したのは旧9階南病棟での経験がきっかけでした。脳神経外科では病気や怪我の影響から、意識の障害や四肢麻痺、話すことや認知機能といった、色々なことが障害されます。摂食嚥下に関わらず、看護師がどのタイミングでどう関わるかということが、患者さんのその後の日常生活に大きく影響すると思います。
 私が1年目のとき、ある時先輩から脳卒中の患者さんに対して、「この患者さんの意識レベルが良くなってきているから、一緒に嚥下のテストをやってみよう」と声をかけてもらいました。それまで私はその患者さんはベッドで寝たきりで、リハビリで車椅子に座っていても目を閉じており、姿勢も保てず、お話をしているところは見たことがありませんでした。先輩と一緒に車椅子に患者さんを移乗し、先輩が患者さんに声をかけ反応を見ながら、嚥下のテストを行いました。そうすると患者さんが「冷たぁーい水や、おいしいな」と笑顔で言われました。私それまで今までその患者さんが笑っているところを見たこともなければ、お話をされたところも見たことはありませんでした。同時に、患者さんの日々の反応を見て嚥下テストを実施するタイミングを見極めて実践でき、患者さんの笑顔を引き出せる先輩が本当に素晴らしく、こんな風になりたい!と思いました。その後その患者さんのリハビリは進み、経口摂取もできるようになり、リハビリ転院をされました。もし嚥下テストのタイミングが少しズレていたら、早すぎれば誤嚥や誤嚥性肺炎へ発展していたかもしれませんし、遅ければ当院でのリハビリはなかなか進まず経口摂取ができないままだったかもしれません。
 今思えば、あの時先輩が嚥下のテストをして返ってきた患者さんの反応は、患者さんの「その人らしさ」を引き出せていたのではないかなと思います。
 「食べること」を支え、「その人らしく生きる」ことを支えることが、「やってよかった、やってよかったと思える看護の提供」に繋がると信じて、これからも患者さんとの関わりを大切にしていきたいと思っています。