197 石見地域を歩く
厳しい寒波も過ぎ去り、春の陽気に誘われて島根県石見地方を訪ねました。まず訪れたのは石見(大森)銀山です。町並み地区の入口にほど近い、銀山川沿いに位置する浄土真宗本願寺派 西性寺の坊守さんは昭和53年卒の龍(天野)文子さん。ウイットの富んだコラムやお寺の情報などを編集した「坊守通信」を定期的に発行しておられます。山門奥に白く見える本堂横の経蔵には精巧で美しい鏝絵(こてえ)が施されていました。金曜日の平日だったせいか、静かにゆったりと時が流れていきます。
豊富で良質な銀を産出したこの地は徳川江戸幕府の直轄地(天領)であったので、代官所跡や寺社には、賀茂高校の校章(かもあおい)と同じ「葵」の御紋が目立ちます。2007年にユネスコ世界遺産(石見銀山遺跡とその文化的景観)に登録された街道と積み出し港は日本海へのルートですが、広島県の三次・吉舎・御調・尾道を経由して瀬戸内からも大阪へと運ばれました。
次に、江津本町甍街道を散策し、赤瓦の街並み景観の保存に力を入れている益田市へ入りました。町中には、冬の冷え込みが厳しい東広島市でもお馴染みの赤瓦(石州瓦)屋根を多く見ることができます。文化芸術施設の拠点である島根県芸術文化センター(グラントワ)の外壁や屋根にも赤瓦が施されており、その機能的な設計と美しい景観が印象的でした。
また、この地で逝去した水墨画家として有名な禅僧 雪舟は、市内の医光寺や万福寺に庭園を築きましたが、須弥山の世界観に想像力を駆り立てられます。心穏やかに、残雪の国道191号線を経由して西中国山地を越え、旧 安芸国賀茂郡の自宅へと帰りました。