「舟 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語」 樫本真奈美(博H25D)訳

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マイケル・ヤング著 樫本真奈美(博H25D)訳
皓星社 2,300円+税

 

第二次世界大戦で日本がポツダム宣言を受諾した後、ソ連軍が日ソ中立条約を破って千島列島を占拠した。 1945年2月、米英ソ3国のヤルタ首脳会談において、ソ連の対日参戦の条件にソ連への南樺太の「返還」と千島列島の「引き渡し」を決めるヤルタ密約があったことなど、当時の一般庶民が知る由もない。 北方四島には同年8月28日にソ連軍が択捉島に上陸、それから国後島、色丹島、歯舞群島に順次侵攻した。 日本人住民は数回にわけて樺太経由で順次強制退去させられるが、引揚げが完了するまでの数年間、新たに入植したロシア人との「共生」期間がうまれた。

1947年、日本人引揚げの日。ロシア人との「共生」生活も約一年が経った頃、ロシア人の4人の子どもが「箱舟」に乗り沖に流されてしまった。 天候が悪化し、ロシア人が救出を試みるもうまくいかなかったところを、ある日本人漁師が単身海に出て救出に成功する。

『舟』は、この実話を核とし、大陸から入植したロシア人と故郷を追われる日本人の「共生」を描いたノンフィクション小説である。 日ロ混住の期間は「空白の期間」と言われ、これまでロシア側から当時の出来事が語られることはほぼなかったため、大変貴重である。

他、日ロ双方の元島民たちのインタビューを収録。終戦後、北方からの引揚げは過酷なものだったが、北方領土では日ロ双方の住民同士が、いがみあうことなく共同生活を送っていた事実もあった。

歴史の表舞台では描かれてこなかった、知られざる民間交流の実態が本書で明らかになる。

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